こ、こんばんは・・・むぎ~です・・・
そう・・・たしかあれは今から10年前ぐらいでした。
その中古住宅はまさに無限回廊。
もがいても・・・出ることができないその家でどのくらい時間が経ったのだろうか・・・
そして・・・僕は生きる気力を失った・・・
この記事の著者
いつも通りの日曜日、それは査定依頼からはじまった・・・
春のおだやかな日曜日。
もう外はコートを着なくても寒くない。
さくらのつぼみも大きくなってきている。
暖かい日差しのなか、予定のなかった僕は午前中から事務仕事をこなしていた。
そんなときに会社の電話が鳴った。
すこし年配の声の女性は、
持ち家の相談がしたい、
今日の今日できるなら午後にでも家の査定をしてほしいとの電話。
ちょうど午後があいていたためその日午後イチに査定にお伺いすることに。
年をとってきて足腰も衰えてきたから駅近のマンションに買い替えたいとのこと。
これは売りも買いも契約が取れたら大きいぞ!っとやる気まんまんな僕。
さっそく周辺相場や売買事例をしらべ駅前のマンション資料を用意。
そこそこの金額で売れそうだし売却金額でマンションも買えそうだ。
この契約をとって今月の数字をつくるぞと。
ますます僕のテンションは上がってきた。
そう・・・このときまでは・・・
運命の邂逅
すこし早めに着いた僕は周辺環境をしらべるためすこし歩きはじめた。
周辺は2階建て住宅が多いとても落ち着いた閑静な住宅街。
すこし歩けば大きめの公園やちょっとしたスーパーもある。
駅からは遠いがバス停も比較的近く交通も非常に便利。
家の目の前の道路もひろく車の運転も心配ない。
街灯も適度にあり暗さを感じない雰囲気。
この環境なら販売時にとてもオススメしやすいし、
環境重視のお客様ならグッとくるだろう。
だいたい周辺をしらべおわると約束の時間となった。
ネクタイをなおし上着を羽織ってインターホンを鳴らす。
インターホンからは電話で話した年配女性の声がした。
「どうぞお入りください」
玄関に通された僕は依頼主の年配女性にあいさつをした。
むぎ~「今日はよろしくおねがいしますっ!」
やはり元気よく挨拶をすることはどの仕事でも基本である。
初対面の印象としては身なりの良い上品な初老の女性。
僕の営業マンとしてのアンテナが「これは契約が取れる」と感じている。
挨拶もそこそこに査定のため家を案内してもらうことにした。
家は無言で語る
案内された家はとても良い状態だった。
敷地は50坪とゆとりがあり庭もきれいに手入れされている。
カースペースも2台あり車も楽に停めることができそうだ。
家のなかもよく手入れが行き届いている。
ところどころ古さを感じるが小綺麗で清潔感がある。
定期的に設備はメンテンナンスや交換をしているそうだ。
これなら大掛かりなリフォームをしなくても十分にまだまだ使える。
風通しもとてもよく、春の気持ちのよい風が家にそよそよと吹いている。
ただ女性がひとりで住んでいるせいか広すぎて少し寂しい感じがする。
室内を案内されながら、いろいろと今まで査定をしようと至るまでの話を聞いた。
亡くなったご主人やお子さんたちと長年暮らした家を売るのは忍びないと・・・
ただ年を重ねるにつれ、車を運転できない女性はとても不便になり売却を決意したとのことだった。
女性は売却も含めていろいろと相談したいとのこと。
「いまお茶を淹れるから、ささ、座って」と・・・
案内された椅子に座ろうとしたその瞬間、
家の奥からすこし風が吹き、
遠くからなにか聞こえたような気がした。
二・・・・・・・・・・・テ・・・・・・・
ハヤ・・・・・・ク・・・・・・・・・・・・・・・ゲ・・・・テ・・・・・・・・・・
契約があたまにチラついている僕は、
風のぬける音かと思いまったく気にとめなかった・・・
老婆の覚醒・・・そして異変・・・
「ここの土地はね、40年前に主人と見にきたとき一目で気に入って買ったの!」
「その頃はこんなにたくさんの家はなくて畑ばかりだったのよ~」
「このあたりは昔から良い土地って言われていたみたいなのよ」
「いまはないけど、この先ちょっと行ったところに雑木林があって、よく息子たちと虫取りしたのよ~」
お茶が出てきた瞬間からその女性はあからさまに口数が多くなった。
まるで別人である・・・
しかもかなりの早口・・・
「3軒先の○○さんのおたくともすごく仲良くしてもらって・・・でも○○さんご夫婦とも亡くなってね・・・」
「2番めの息子夫婦は仕事で住んでいるところがすごく遠いの」
「なかなか帰ってきてくれないから息子に聞いてみたら、お嫁さんが遠いからたまにで良いって言ってるって」
「ひどいわよね~?孫にも会わせてくれないお嫁さんどう思う?」
百戦錬磨の営業マンである僕も序盤は互角に渡り合ってたものの、徐々に押されはじめてきた・・・
「孫は3人いて、もうみんなかわいくて目に入れても痛くないとはこのことね!」
「孫はみんな男の子で、まるで息子たちの小さい頃にそっっっっっくり!」
売却の話を切り出したいがまったく歯が立たないゾーンに入ってきている・・・
のどがカラカラになって出されたお茶を僕は飲み干した。
すると間髪入れずに、
「あらあらもう一杯淹れてあげるわね」
と後ろを向いたその瞬間、
その横顔が「ニヤア」としたように見えたが
霞んでいる目のせいだと言い聞かせた。
もう手も足も出ない・・・
1を言えば10返ってくるほどの女性の無双っぷり・・・
注がれ続けるお茶・・・
女性の後ろではヤカンがしゅんしゅんしており次のお茶を待機している・・・・
これは一旦女性が疲れるまで話を聞かないと終わらないと悟り、
僕は体力温存と兵糧攻めに移行した。
すると徐々に女性の話のペースが落ちてきた。
これはチャンスではないか!
ほころびを見つけて一気に攻勢に出るぞ!
っと思っていた矢先に・・・
「ここの土地はね、40年前に主人と見にきたとき一目で気に入って買ったの!」
「その頃はこんなにたくさんの家はなくて畑ばかりだったのよ~」
え・・・え?・・・・ちょっと、待って!・・・・
タイムリープ?
あ・・・あれ?
何か聞いたことがある話ばかりだな・・・
デジャヴ・・・・?
「このあたりは昔から良い土地って言われていたみたいなのよ」
意識が朦朧とするなかこれもあれも聞いた覚えがあるなと・・・・
「いまはないけど、この先ちょっと行ったところに雑木林があって、よく息子たちと虫取りしたのよ~」
あ・・・こ、これはタイムリープ・・・では・・・?(違う)
「3軒先の○○さんのおたくともすごく仲良くしてもらって・・・でも○○さんご夫婦とも亡くなってね・・・」
そうだ・・・きっと・・・これは平行世界で、脱出するフラグを立てなきゃいけないんだ!
「2番めの息子夫婦は仕事で住んでいるところがすごく遠いの」
しかし話のペースが早くて手が出ない!
「なかなか帰ってきてくれないから息子に聞いてみたら、お嫁さんが遠いからたまにで良いって言ってるって」
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・
「ここの土地はね、40年前に主人と見にきたとき一目で気に入って買ったの!」
「その頃はこんなにたくさんの家はなくて畑ばかりだったのよ~」
え?・・ええ?・・・・・またここから!?・・・
大団円
もう何回目の平行世界かわからない・・・・
どうやら一人暮らしが長い女性はだれか話し相手をさがしていたようだ。
まさに女性のHPは無尽蔵・・・
もしここで脱出できなければもう僕はダメかもしれない。
こうなったら体力が続く限り脱出フラグをさがし続けるしかない!
女性と僕の我慢くらべ。
根負けしたらもう二度と外には出ることができず、
僕は未来永劫この中古住宅内をさまようのだろう・・・
そしてその時はきた・・・
おぼろげな意識のなか、
何の気無しに言った僕のひとこと。
むぎ~「お孫さん、女性さんにすごく目もとが似てますね~」
!?
!?!?
【女性はスタンしている・・・】Σ(・∀・;)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そうでしょう~、毎日でも会いたいのよ~」
むぎ~「お孫さんのお近くにマンションがあればバッチリですね~」
「たしかにそうね!」
「そうしたらいつでも会えるわよね!」
クラr・・・フラグが立った!!
これは最大のチャンスではないか!
目がさめた僕は間髪入れずに、
「では売却を進めていきましょう!」
と話を挟んだ・・・・
すると女性は観念したように、
「ええ、お願いします」と。
しかも更に!
「孫の家ちかくのマンションもお願いね♡」
と、なんと購入の依頼まで!
一時は脱出を諦めかけたけど、
僕は唯一のチャンスをモノにできたようだ。
が、しかし、やっとのことでその家から出ることができた僕は愕然とした・・・・
お昼すぎに来たはずにもかかわらずもう辺りは暗いのである・・・
いったい何時間いたのだろうか・・・
後日談・・・
その後無事に買主さんが見つかったその女性宅。
晴れて契約の日を迎えました。
14時から始まった売買契約・・・・
恐れていたことが・・・
なんと査定時に話していた内容をず~っと買主さんに話しまくる事案が発生!
契約が終わったときは辺りは真っ暗でした・・・